人はすぐに得られる報酬がない限り、一般的には変化を諦めてしまいます。例えば、ジムに通うことを想像してみてください。理想の体型を手に入れるためにジムに通い始めたものの、たった一週間や二週間という短いスパンでは驚くほどの体重は減らないと、ジムに通うお金も時間ももったいないと理由をつけ、突然ジムに通うモチベーションは下がり、変化することを諦めてしまいます。 企業においてデジタル化を導入する際にも同様のことが言えます。

もちろん、そもそもそれが「良いアイディア」なのかどうかさえ分からない場合はまた別の話になりますが、企業がデジタル変革を行う際は、デジタル化により仕事のやり方が変化したり、仕事自体が消えたりするという変化を伴う上に、成功する保証もありません。

既存のやり方を変えてリスクを取ることに対して世界中の企業ですら抵抗感を抱えてしまっています。2017年 Harvey Nash/KPMG CIO 調査 (この分野における世界最大の調査)において「変化への抵抗」がデジタル変革の最大の障壁となってしまっていた事実も不思議ではありません。

本記事では、人々がデジタルイノベーションに抵抗してしまう理由を紐解き、そういった抵抗感への対応策をご紹介したいと思います。前提として一つ挙げたい議題があるのですが、デジタルのことだけではないですが、人々は変化へ抵抗するにもかかわらずなぜイノベーションには大騒ぎするのでしょうか?確かにイノベーションは人類の進化には必要なステップであり、生活や仕事が進化することは良いことですよね?新しいアイディアが生まれたら試してみるのは自然なことではありませんか?

しかし、どうもそれは違うようなのです。19世紀の哲学者であり心理学者であるウィリアム・ジェームズは次のように人間の性質を上手くまとめています。 「人々は新しいものに出会った時、『それは本物ではない』と言います。後にその真相が明らかになると、『それは重要なことではない』と言い、そしてその重要性が無視できなくなると『ともかく、それは新しいことではない』と言うのです」。

ウィリアム・ジェームズが言っていることから分かることは、人々は特に新しいアイデアに対して直感的に疑問や抵抗を持ってしまうということです。実際にいくら画期的なアイデアだとしてもそれを実行しようとするのは難しいということも、新しいアイデアに対して人々が疑問や抵抗を抱いてしまう理由の一つとして挙げられます。

また、軍隊の格言に「いかなる戦術も眼前の敵には無力だ」というものもあります。(マイク・タイソンはまた『どんな人も、顔面にパンチを受けるまでは戦術を持っている』と彼なりの言い方で言っています) 上記の格言はスティーヴン・プール(参照:新しいアイディアについての驚くべき歴史)からの引用で、この本ではどうしてイノベーションが「顔面にパンチを受ける」ように感じられるのかを歴史から紐解いています(変化する人だけではなく、変化を起こすイノベーターも同じ様な気持ちを変化に対して抱いているということです)。

実際、よく使われる「硝酸と心を掴んで勝つ」というフレーズは、元はというとスティーヴンの本の中の、1950年代のマラヤの対ゲリラ作戦を率いたイギリスの司令官、サー・ジェラルド・テンプラーの回想記で使われていた言葉でした。

彼はこのように言いました「困難の25%だけが戦場にあり、75%はマラヤの人々のハートとマインドを掴むことだ」。ビジネスにおいても同様のことが言えます。イノベーションを起こすためにも「困難の25%だけが現場にあり、75%は市場(人々)の称賛と心を掴むこと」が大事なのです。

では、デジタル変革の話に戻りますが、なぜ人々はデジタル変革に抵抗するのでしょうか?この質問に答えるために、SaturnF1の創立者であるアラン・ワハにインタビューを行いました。SaturnF1は、デジタルGo-To-Market戦略で特定の業務を行うグローバル企業グループからのスピンオフ企業です(SaturnF1がスピンオフ企業であるという事実は、デジタルイノベーションへの抵抗に打ち勝つ手がかりとなりますが、その話はまた後に)。

なぜ人々がデジタルに抵抗するかに対して、アランは「人々はキャリアのために『失敗のリスクが少ない仕事』をするのです」と答えました。つまり、仕事とは常に成功が基準であり、わざわざ失敗するリスクを取ってまでデジタル変革を導入することを避けています。

しかし、革新的なデジタル環境の中に身を置くアランはこのように言います「どんな組織や個々人においても継続的な改革は必要です。なぜならテクノロジーの進歩は非常に早く常に進化し続けているからです。また、テクノロジーの進化は速く、その方向性は誰もわかっているとは言えませんが、だからこそ改革が必要なのです。」。

そして、彼は話を具体的にするために、部屋の後ろへ40歩下がることを想像してください、と言いました。「もし指数関数的な速度で前進するとしたら、どこまでいけると思いますか?太陽ですよ」。 急速に進化する技術革新は人々に抵抗感を与えるのと同様に、企業や組織にさえも危機感を与えています。

昔から存在する企業は企業は長年の年月をかけサービスや機能を構築し提供してきました。その様な企業は、デジタル化を導入することは築き上げてきたビジネスを「破壊」してしまうのではないかという危機感を覚えてしまっています。 もしスタートアップ事業を0から始めたのなら、失敗は怖いものではありません。成功のために失敗してしまっても改良を重ね、新しいことにチャレンジしたりすることで成功することを彼らは知っています。

スタートアップの経営者は失敗は経験であるというふうに捉え、常に失敗の経験を次に生かしています。むしろスタートアップの間では、早く失敗しそこから早く学ぶことは良いこととされているのです。しかし既に成長した大企業の場合にとって、その様に考えることは難しく、失敗はリスクなのです。

では、デジタル率先力を考えている企業は、収益性よりデジタル化導入のための学習を優先すべきでしょうか?アランの見解では「個人ベースで考えると、そうではないでしょう。しかし、経営陣はポートフォリオの手段を取るべきです。そのためにはベンチャーキャピタリストの思考が必要です。ベンチャーキャピタリストは、ポートフォリオ全体の内部収益率を見て、事業がどこのステージ(例えばシードステージ、スタートアップ、ブリッジ など)にあるかに応じて投資をします。

スプレッドベッティングにより利益も損益もあるでしょうが、おそらく利益が出るでしょう。 デジタルイノベーションを成功させるために、アラン氏は3つの考慮すべき事項があると言います。

御社のITチームは素晴らしいですか?


企業がデジタル業務を実行する方法を考える際、一般的な手段はプロジェクトをノウハウやスキルを持った開発会社にアウトソーシングすることです。しかしアウトソーシングを活用する方法は、実績があり適切なスキルを持ったチームにより業務が進む一方で発注側の企業のためになっていない、とアランは言います。

企業はデジタル文化を構築することを望んでいるのに、プロジェクトをアウトソースしたのでは、社内でのデジタル文化の構築も知識の習得もアウトソースすることになってしまいます。つまり、アウトソーシングするだけではデジタルの成熟度を上げ、デジタル思考を取り入れるという目的を叶えることができないのです。

つまり、重要なことは「一瞬の解決」を求めるのではなく、社内の環境を作り出した上でアウトソーシングを活用することなのです。 現代の企業にとってはニーズを満たすデジタルビジネスを入手することは理にかなっているのでしょうか。と、私はアランに聞いてみました。彼は「どのようにして社内へのノウハウを導入するのですか?もしそれが外部に出せないような画期的なノウハウや技術であるのなら販売されることはないでしょう」と言います。

つまり答えは「ノー 」ということです。たとえ適切なビジネスが手に入ったとしても、そのビジネスに自動的にデジタル文化を導入することには繋がらないのです。人々や企業文化を扱うシステムを構築するには、さらなる努力が必要です。

ビジネス上の大きな問題に注目できていますか?


アランは「まずITはなくではなく、ビジネス上の解決すべき問題を考えてください」と言います。つまり、デジタルを構築しビジネスを行うのではなくオムニチャネルマーケティングを構築することを意味していました。

オムニチャネルマーケティングは、顧客管理システムを活用し顧客データを完璧にビジネスに繋ぐことで、販売業者やエンドユーザーに対して直販チャネルをもちます。企業グループにとって技術とアジャイル手法の含まれるソリューションが必要な問題を抱えていることは何代です。しかしビジネスの出発点は「レガシーチームが行わない成功を予期する業務を12ヶ月の間ですること」でした。

競合調査を行いましたか?部分的にでも既にソリューションはありましたか?


もし答えがイエスなら、解決するだけの価値がある問題を抱えていることはチャンスであり、失敗のリスクは情報を集めることによって多少軽減されます。 余談ですが、既存のビジネスプロセスをデジタル化するよりも、新しいビジネスモデルを取り入れる方が、デジタルによる問題解決の価値があります。

1990年代から少なくとも20年、重要視していたものは「ビジネスプロセス・リエンジニアリング」で、ビジネスの効率化と成長でした。 現在ではそれは基本ビジネスモデルの「破壊」と言われますが、成功例としてはEasyJet、Uber、Airbnb、アマゾン、等と多くの企業が既存ビジネスモデルの「破壊」により成功を収めており、挙げればきりがありません。

したがって、スタートアップは、従来と根本的に違う方法でビジネスを行うリスクがあるのが明らかな一方で、地位が確立された先駆者(場合によっては市場トップさえも)に追いつくために急激な成長を推し進めます。 スタートアップの「破壊」が意味するものは、現在レガシー企業にとって確固たる基盤が存在するという事実なのです。

適応できない恐竜や、簡単に転回ができないオイルタンカーのようなビジネスはもう要りません。レガシー企業にとって、アプリケーションの新しい世界とAPIをレゴブロックのように組み立てて新しいビジネスモデルを立ち上げる時代が来ています。

デジタル化の成熟と思考を受け入れることが大切

アランが取った行動は、新しいビジネスモデルを取り入れることでした。一つは「大きな問題を解決」し、少なくとも「部分的なソリューションがある」ものです(そして他では既にオムニチャネルマーケティングや販売ソリューションを構築していました)。

このグループこそSaturnF1というスピンオフ企業です。 スピンオフの主な理由は、素晴らしいチームとなるために、デジタルの成功の予兆の3番目に備えるものでした。これは、コアビジネスのメンバーへの敬意と可能性を下げるものではありませんが、デジタルビジネスとタイムフレームには異なったスキルが必要であるという認識は受け入れられませんでした。

さらに、新しいデジタルビジネスを創造する意欲的なタイプの人々は、いつも通りに事が運べば良いとする文化と古い技術環境の中では、やる気を無くす可能性が非常に高いでしょう。

デジタルへの抵抗感の克服

デジタル変化の成功は、人々から「称賛と心」を獲得できるかどうかにかかっています。人々の抵抗感を克服するためには、変化自体が人々にとっての魅力を生み出す必要があります。それはデジタル化においても例外ではありません。 変化が個人にどんな影響を及ぼすか説明し、企業が変化の目標に向かうモチベーションを与えることが大切です。

これは簡単ではなく、新しいシステムやプロセスほど最終的な目標はシンプルではないということがさらにデジタル変革を難しくさせます。デジタル変革とは全く新しい文化や完全に異なるオペレーティングを企業に持ち込むということなのです。

したがって、デジタル変革の成功にはリーダーシップスキルと変化を包括的に捉えられる戦略が必要で、デジタルの採用を促すオーバーアーチアプローチと繋がっています。表面上は「オーバーアーチアプローチ」はガバナンスに加わった層のように聞こえるかもしれません。 しかし、「オーバーアーチアプローチ」はそれ以上のものなのです。実際には、デジタルプロジェクトやプログラムの導入はリスクが高く、多くは失敗しています。関係者の不安はそれにより増幅します。

そのため企業はデジタル投資の際、いくつかの同時変化イニシアチブとダーウィン風の「最適者生存」のどちらが上手くいくか試し、ポートフォリオアプローチを取り入れたいと考えるかもしれません。 生物学的な進化において「最適者生存」は、遅いながらも非常に効果的な戦略です。

ここでの変化とは、抵抗されるのは生き残りに悪影響がある場合のみで、良い変化は歓迎されます。デジタル世界に向けて効率化した進化に適応することで、大自然の教えを受けることができるでしょう。つまり、人々と企業にイノベーションを促すと、恩恵は非常に大きいのです。恩恵は生き残ることかもしれません!

ご連絡先:

ヴィッキー・チャン, カントリー マネージャー
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